DC/DCコンバータMAUシリーズの基本特性


MAU100シリーズ

秋月では何種類ものDC/DCコンバータモジュールを扱っていますが、その中に小型で比較的使いやすくヴァリエーション豊かなのがここで実測したMAU100シリーズ(1W)とMCW03/MCWI03シリーズ(3W)、そしてMIWI06シリーズ(6W)です。実測の対象としたのは、5V入力→12V×2出力のMAU108です。得られたデータ的特徴は他の規格のMAUモデルにおいても概ね共通していますので参考にしてください。

テクニカルドキュメント:MAU100.pdf

(画像出典:秋月電子通商サイト)

このシリーズの良いところは、入力側と出力側が高耐圧で完全に絶縁されているという点にあります。入力側と出力側に異なる電位を与えたりフロートさせて使うことができますし、アースの共通インピーダンスに起因するノイズが回避できます。複数を直列してより高い電圧を得ることもできます。

MAU100シリーズはMCW03シリーズやMCWI03シリーズとは内部構成が根本的に異なります(下図)。MAU100シリーズは、スイッチング回路の後に昇圧トランスが来るわけですが、出力は出しっぱなしで、出力電圧をレファレンスして帰還する機能がありません。そのため、出力電圧は安定化されません。MAU108は12V×2の出力が得られることになっていますが、入力電圧や出力側の負荷によって出力電圧は変動します。一方で、MCW03シリーズは出力電圧をレファレンスして帰還する機能を持っていますので、出力電圧は周囲の条件の影響をほとんど受けないで正確に一定値を保ちます。

入力電圧に変動がどれくらい出力電圧に影響するかをライン・レギュレーションと言いますが、MAU100とMCW03を比較すると下表のごとくなります。

Series入力側変動出力側変動
MAU100±1%の変動に対して±1.2%
MCW03±50%程度の変動に対して±0.3%

ご覧のとおり、数字上は圧倒的な違いがありますが、テクニカルドキュメントには上記の数字が書いてあるのみで、イメージがつかめるグラフはありません。そこで実際に実験回路を組んで特性を測定してみました。対称としたのはMAU108で、これは直列になった12V×2系統を出力しますので、12V+12V=24Vのところで測定しています。


MAU108の実測特性

入力電圧→出力電圧依存特性

テクニカルドキュメントによると、入力電圧は4.5V〜5V〜5.5Vとなっています。そこで、4.4Vから5.6Vの範囲を設定してデータを取りました。出力電圧は入力電圧に著しく依存しています。5V入力で40mAを取り出した時に規定通りの24V(12V×2)が得られます。そこそこ安定した出力電圧が得たかったら、入力側の電圧を安定化するか、出力された後に安定化電源回路を追加しなければなりません。

 参考:MCW03-12D15→


出力電流→出力電圧特性

入力電圧を安定化した状態で、出力電流によって出力電圧がどう変化するかのデータです。トランスを使ったごく安定化されていない普通の電源の特性のようになりました。なお、これは入力側は電圧降下が生じない理想的な電源から供給した条件下のデータですので、レギュレーションが完全でない現実の回路ではこれよりも悪い特性になります。

注意点としては、1mA以下の領域では出力電圧か急激に上昇して無負荷では40V以上にもなるということです。しかし、ごくわずかの電流(たとえば0.3mAくらい)を流せば電圧上昇は30V以下になります。ある程度安定した電圧を得るためには2mAくらい流しておいた方がいいでしょう。

 参考:MCW03-12D15→


出力電流→入力電流特性

入力電圧を安定化した状態で、出力電流によって入力電流がどれくらい必要になるかのデータです。約30mAを初期値として出力電流に対して直線的に増加します。同じ出力電流を得た時の入力電流は、入力電圧が高いほど多くなります。

実験の結果から、5V入力において出力電流i-outを得るための入力電流i-inputは概ね以下の式で求められます。

入力電流i_input(mA)=28+(出力電流i_out×5.35)


まとめ

MAU100シリーズは、入力電圧の変動の影響を受け、出力側の負荷の影響も受ける、安定化機能を全く持たないDC/DCコンバータです。しかし、そのことを理解して適した使い方をすれば、廉価で小型で低ノイズの電源回路を組むことができます。プリアンプなど、消費電流が少なく変動がほとんどない回路に適しています。

右図は私なりに設計してみた回路の例です。

入力側のC0とL1はスイッチングノイズの逆流を防ぐためのインダクタです。MAU108が出すスイッチングノイズはmVオーダーですので1段フィルタで十分に機能するだろうと思います。C1はスイッチングのための電流を充放電して供給する役割です。C0とC1は低ESRのコンデンサが好ましいので、ESRが格段に低いOSコンがベストです。

C2とC2はいわゆるリプルフィルタですが、こちらも低ESRが望ましいのでOSコンがベストです。容量はあまり大きくすることはできず、MAU100各モデルごとに上限が決まっています。スイッチング周波数は100kHz前後で非常に高いので、容量が大きいことよりも100kHz〜1MHzあたりで十分に低いインピーダンスが得られることの方が重要です。スイッチングノイズの除去に念を入れたいのであれば、この先に100μHくらいのインダクタと適当な容量のOS-CON(総容量が定格を超えないように注意)によるπ型フィルタを追加します。

R1とR2は、負荷は開放になった時に出力電圧が異常に高くならないためのブリーダー抵抗です。



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