Balanced Output MM Phono Equalizer Amplifier
平衡出力MMフォノ・イコライザ・アンプ



■設計コンセプト

さきに製作した「平衡出力MM/MCフォノ・イコライザ・アンプ」は期待通りの音を出してくれましたが回路が少々複雑で部品点数も多いため、これをベースによりシンプルなPHONOイコライザを考えてみました。各増幅段は、差動プッシュプルあるいはそれに準ずるプッシュプル構成とし、通常のシングルエンド増幅回路では得られないメリットを狙っています。また、1Uサイズの平たいケースにも実装可能なように各部品の大きさも配慮しました。

ご注意:この回路は机上設計段階のものなので、実機での検証は行っていません。RIAAイコライジング特性については、特に200Hz以下の精度は保証の限りではありませんので、実測しつつ1.8MΩの値を調整してください。


■仕様の検討

<入力仕様>

もっぱらMM型のカートリッジを対象としたオーソドックスな入力仕様とします。従って、MCカートリッジを使う場合は、別途、MCカートリッジ用ヘッドアンプまたはトランスを用意することを前提としています。トランスで自作されるのであればこちらの記事を参考にされたらいいでしょう。

<出力仕様>

出力側は平衡です。従って普通のプリアンプは使えません。50kΩ程度の負荷を想定して設計しますが、最低値として20kΩの負荷においても遜色のない特性が得られるように配慮しますが600Ωクラスの低インピーダンス負荷は考慮には入れていません。本機の出力をトランスで受けるのはトランスのインピーダンスを問わず適しません。

<利得仕様>

利得は、一般的な値の39dB(92倍)です。


■回路構成

<PHONOイコライザ部>

利得を稼ぐために初段は高μの12AX7/ECC83、出力インピーダンスを下げ耐負荷能力を高めるために終段は6DJ8/6922としました。初段は位相反転機能を持った差動入力であるため、カソード側には2SK30A(Oランクから選別※)による定電流回路を入れてあり、マイナス電源で引いています。終段の6DJ8には3.6mAほどのプレート電流を流して充分な負荷駆動力を得ています。そのおかげで初段カソード抵抗値を小さくできたため、初段利得をかなり稼ぐことができています。

RIAAイコライザは一般的なNF型ですが、回路全体が差動プッシュプル構成であるためにNFBもプッシュプル的な対象構造になっています。6DJ8の負荷駆動力のおかげで真空管回路にしてはかなり低いインピーダンス設定になっています。設計上のRIAA時定数は以下のとおりです。

指定時定数設計時定数計算式
75μS76.5μS=51kΩ×0.0015μF×1000
318μS305.8μS=(51kΩ//1500kΩ)×(0.0015μF+0.0047μF)×1000
3180μS8460μS=1800kΩ×0.0047μF×1000

出力側のDCカット・コンデンサは0.47μF以下を推奨します。この値が大きいと、電源ON/OFF時の過渡電圧が出力側に現われやすくなります。0.68μFを上限としてください。

※Oランク選別の2SK30Aは若干手持ちがありますので、希望される方はメールください。(当サイトの部品頒布の特例としてお分けします)
※下の回路図の記入漏れについて・・・初段下側球のグリッドはアースにつなぎます。次段のグリッドは通常のCR結合のとおり1MΩにつなぎます。

<電源部>

電源回路はかなりシンプルで特別なことは一切やっていません。120Vを倍電圧整流して約310Vを得て、トランジスタ式リプル・フィルタを経て左右チャネルにリプルのない250Vを供給しています。初段でマイナス電源が必要なので、ヒーター電源全体がマイナス構成になっています。ツェナ・ダイオードで-14Vの基準電圧を得て、PNPトランジスタによる簡易定電圧電源としています。

全回路電流は16.5mAですが、2SC3425のhFEは45〜50くらいにばらつくので、2SC3425のベース電流は0.33〜0.37mAです。一方でベース側ブリーダー抵抗(470kΩ)には0.53mAが流れます。2SC3425のベース〜コレクタ間電圧は60Vほどなので、ドロップ抵抗は60V÷0.86〜0.90mA=70〜66kΩが適します。なお、2SC3425の出口(エミッタ)側にも470kΩの抵抗がありますが、これはこれは電源OFF時に「ベース電圧<エミッタ電圧」となって2SC3425を破壊しないための重要な抵抗ですのでこれより大きな値にしたり省略しないでください。(同じ目的としてエミッタ→ベース間にダイオードを入れるという方法も有効です)


■部品

<CR類>

初段まわりと負帰還まわりは低雑音性の優れた金属皮膜抵抗を使ってください。特に、RIAA特性を得るための負帰還回路は1%級の精度のものを使います。アンプ部のコンデンサは電源の22μF以外は通常タイプのフィルム・コンデンサ(ポリエステル=マイラ)が音が自然いいでしょう。負帰還回路の0.0015μFには3V程度しかかかりませんが、0.0047μFには常時90V程度がかかるので耐圧には注意してください。

<真空管>

私は真空管のブランドには特にこだわりませんので、廉価に購入できる球で充分だと思っています。12AX7と同じに使える球として12AX7A、ECC83、7025/A、6681、CV4004などがあります。6DJ8の同等球には、6922、E88CC、7308、E188CCがあります。特性は若干異なりますが6BQ7AやECC180もそのまま使えます。6N1Pは特性的にはOKなのですがヒーター電流が0.6Aとかなり多いのでヒーター電源回路に工夫がいるでしょう。

<半導体>

初段定電流回路の2Sk30A(Oクラス)からの選別は少々難しい課題だと思います。そもそも、0クラスの2SK30Aなんてなかなか売っていません。てっとり早い解決策として部品を頒布していますが、すでに入手困難な状態ですのでいつなくなるかわかりません。2014.2現在の手持ちがなくなったら頒布は終了です。頒布を希望される方は、現在頒布可能かどうか必ず確認してください。

定電流ダイオードは動作ノイズが結構あるのでおすすめしません。定電流回路はトランジスタなどを使って自力で組んでもかまいません。


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