普通のステレオパワーアンプを平衡化する
バランス式BTLアダプタ

2017年のある日、音響エンジニアの赤川さんが私のミニワッターの音を聞きたいというので、6N6P差動PPミニワッターとトランジスタ式ミニワッターPart4も持参して試聴したところ、小出力ながらモニターアンプとして使えるということになった。しかし、私としては最大出力が1.5Wあるかないかではいずれ「もうちょっとでいいからパワーアップできない?」と言われそうな気がして歯切れの悪い返答していた時のことだった。赤川氏は「ミニワッターってBTLにしてパワーアップできないの?」とおっしゃる。言われてみれば当然、至極簡単なことだった。

母体となったのはこのアンプ「6N6P全段差動PPミニワッター2012 Vesion2」。これを製作し、それぞれに以下に説明するバランス入力のキャノン端子をつけ、+4dBmに対応したアッテネータをつけたのが画像の中の右側の2台。RCA端子に左右の信号を入れたら、1台1台が普通のステレオアンプとして動作するが、バランス入力で使うと1台のモノラルアンプになる。


■市販パワーアンプのブリッジ(BTL)仕様

業務用2CH(ステレオ)パワーアンプの仕様をみると、ほとんど例外なく右図のような記載があります。

8Ω負荷でみると、ステレオアンプとしては150W+150Wですが、ブリッジ出力でモノラルアンプとして使うと440Wになっています。このブリッジ出力というのは、BTLとも呼ばれている接続方法です。

右の画像のスピーカー出力のところを見ると、スピーカーの絵が3つあります。上下の2つがステレオアンプとして使った時のごく普通のつなぎ方で、中央の1つがブリッジ(BTL)接続の時のつなぎ方です。

ブリッジ接続では、2台のアンプをつないで1台として使います。半導体アンプの場合は、ブリッジ(BTL)接続にすると出力は理論値では4倍、実際のアンプでは3倍くらいにパワーアップします。ブリッジ(BTL)接続とはどんなものなのか、何故出力がアップするのかについては以下に説明します。


■ブリッジ(BTL)接続とは

BTLは、Bridge Tied LoadあるいはBridged Trans Lessの略で、ブリッジ型の回路を応用してトランスを廃して負荷を駆動す回路、というような意味です。

何故、トランスレスと言われるかというと、それは1970年頃のトランジスタアンプに遡ります。当時のトランジスタ式アンプは、SEPP回路を採用することで出力トランスをなくせたためにOTLアンプと呼ばれたわけですが、現在では当たり前にまった±2電源ではなく+だけの1電源でした。そのため、アンプの出力とスピーカーの間にはDCを遮断するためのコンデンサ「C」が必要でした。ところが、出力端にDCがでてしまう回路を2つつなげると相対的に0Vになるので、コンデンサ「C」をなくすことができると考えられたわけです。しかし、現実には安全上の理由でアンプのスピーカー端子にDC電圧を露出させることはできませんが、スピーカー端子が露出しないカーステレオではこの方式がよく使われます。

1台のアンプが4Vを出力して8Ωのスピーカーを駆動しているとします。この時の出力は、4V×4V÷8Ω=2Wです。ブリッジ(BTL)接続では、1台のアンプが4Vをスピーカーの一端に出力し、もう1台のアンプが-4Vをスピーカーの反対側の一端に出力しますので、スピーカーには8Vがかかります。この時の出力は、8V×8V÷8Ω=8Wとなって1台の時の4倍になります。ブリッジ(BTL)接続にすると、理論上は出力が4倍になります。

これは、負荷からみると2台のアンプが直列になっているとも言えます。直列になった2台のアンプで8Ωのスピーカーを駆動するということは、1台のアンプからみたら負荷は半分の4Ωになっているわけです。そのため、ブリッジ(BTL)接続のアンプで4Ωのスピーカーを無理なく駆動するためには、個々のアンプは2Ωの負荷に耐えるものでなければなりません。

半導体アンプにおけるブリッジ(BTL)接続の最大のメリットは、低い電源電圧でも非常に大きな出力が得られることです。そのため、12Vという低い電源電圧のカーステレオではなくてはならない方式なのです。また、プロのPA現場で使われる超大出力アンプでも採用されています。

出力トランスを使用した真空管アンプをブリッジ(BTL)接続した場合は、たとえば8Ωスピーカーでは2台のアンプそれぞれ4Ω端子を使います。そのため4V×4V÷8Ω=2Wが8V×8V÷8Ω=8Wとはならずに、5.7V×5.7V÷8Ω=4Wとなります。半導体アンプのような出力4倍にはならずきっかり2倍になります。そこで問題がひとつ生じます。それは、6Ωスピーカーならばアンプ1台あたりは3Ωなので4Ω端子でもなんとかなりますが、4Ω以下の低いインピーダンスのスピーカーを使いたくても出力トランスに2Ω端子が存在しないという問題です。


■アンバランス入力時のブリッジ(BTL)アンプの回路方式

右図の<アンバランス入力>がごく一般的なブリッジ(BTL)接続のやり方です。

入力信号は、1台目のアンプにはそのまま入力しますが、2台目のアンプの手前には利得=1倍の位相反転回路(フェーズ・インバータ)があり、位相を反転させてから入力します。OPアンプと抵抗器×数本でできてしまうので、この回路方式はよく採用されます。

この方法の欠点は、位相反転回路が介入することで2つの信号の波形や位相や応答時間にわずかな違いが生じるために、完全なバランス入力ではなくなってしまうことです。もちろん、回路方式を工夫すればバランス度の高い位相反転方法も可能です。

スピーカー出力側は、それぞれのアンプのHot側のスピーカー端子とスピーカーを接続し、Cold側のスピーカー端子には何もつなぎません。


■バランス入力時のブリッジ(BTL)アンプの回路方式

バランス入力の場合も、上記のアンバランス入力と同じ考え方で位相反転回路を割り込ませる方法も可能ですが、右図の<バランス入力>には位相反転回路がなく、キャノンコネクタからいきなり2台のアンプに入力しています。

バランスでは、それ自体が位相が反転したHot/Coldの2つの信号を持っていますから、Hot側をそのまま1台目にのアンプに入力し、Cold側を2台目のアンプに入力するだけで足りてしまいます。この方法ならば上記の不完全なバランス入力の問題も生じません。

上下の2つの図を比べてみると、入力信号の振幅に違いがあることに気づきます。バランス入力の時の入力信号の振幅は、位相反転回路を挿入した時の半分になっています。1つの信号を2台のアンプで半分ずつ分け合うためにこんなことが起こります。アンプの最大出力は同じですが、入力信号に対する感度(=利得)はバランス入力の方が6dB低下するわけです。

この方式は、キャノンコネクタを追加するだけでステレオアンプ自体の回路変更が不要であることが特徴です。さらに、ステレオアンプ側には一切手を加えないで、「キャノンプラグ×1+RCAプラグ×2」を使ったアダプタがあれば実現できてしまうところがミソです。但し、バランス出力を持ったプリアンプが必要ですが。


■アダプタの製作

アダプタの配線は、回路図というほどのものではありませんが右図のとおりです。どこかのオーディオ機材のおまけでついてきたステレオRCAケーブルを半分に切って2つに分け、それぞれの先にキャノン・メス・プラグを取り付けて作りました。

キャノン・メス・プラグは比較的廉価で扱いやすいNeutrik製です。このプラグはご丁寧に筐体をアースするためのGND端子もついているので、抵抗器のリード線の切れっ端をU字型にしてGND端子と1番ピンとをつないでから、RCAケーブルの心線やアース(シールド被覆)をハンダづけしています。アース(シールド被覆)は1番ピン、右チャネル(赤)は2番ピン、左チャネル(白)は3番ピンにつなぎます。

キャノンプラグの仲にある砲弾状の筒は誤接触防止の絶縁体ですが、組み立てて締め付けるとケーブルに食い込むストッパの機能も持っています。ストッパ機能がしっかりと働くように、ケーブルの根元に熱収縮チューブを二重に巻いて太くしてありますが、ビニルテープを巻きつけてもいいでしょう。逆にRCAケーブルに太いものを使うとキャノンプラグに収まりません。


■使用上の注意

この方式では、バランス出力を持ったプリアンプと、全く同じ構成の2台のステレオパワーアンプが必要です。

本文中に詳しく触れましたが、使用するアンプの方式やスピーカーの制約があります。8Ωスピーカーを鳴らす場合はパワーアンプ1台あたりの負荷は4Ω、6Ωスピーカーでは3Ω、4Ωスピーカーでは2Ωとなりますので、そのような低インピーダンス負荷に対応できるパワーアンプであることが必要です。

出力トランス使った真空管パワーアンプでは、出力トランスの2次巻き線インピーダンス制約を受けます。4Ω巻き線がついていれば6〜8Ωスピーカーを鳴らせますが、8Ω巻き線しかついていないアンプでは16Ωスピーカーしか鳴らすことができません。

スピーカー端子のCold(0Ω)側がアースされていない回路方式、フローティングされている回路方式のパワーアンプは使えません。すでにブリッジ(BTL)接続になっているアンプをさらにブリッジ接続することはできません。



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