How to Live, How to Behave No.4

家具を捨てるライフスタイル


家具が捨てられてゆく

家を新築したり、新たにマンションを購入した時、私達の多くは当たり前のようにこれまで使っていた家具を処分します。我々にとって家具というのは、消耗品になってしまったようです。もったいないはなしですが、新しくきれいになった家に古くなった家具を持ち込んでも、みすぼらしい限りだと言われれば、仕方がないのかもしれません。

では、新築した家で使うことになる家具はどうなのでしょうか。一体、何年、何十年使われるのでしょうか。たぶん、その家に住みつづける限り、それなりの年月にわたってその家具は使われてゆくかもしれません。しかし、20年経ってみて、その家具がどのようになっているかというと、家とともに古ぼけてみすぼらしいものになっていることが多いのです。ただ、長年見慣れてゆくために、そのみすぼらしさがあまり気にならないだけのことです。ですから、内装を一新したり、いくつかの家具を買い換えたりすると、たちまち、これまで使ってきた家具はその地位を失います。

私達は、常に新しくてきれいなものを求めています。年月が経ったものは、時間と共にその価値を失ってゆくき、あるタイミングでまとめて捨てられてゆきます。

せっかちな日本人の安物買い

家具の買い方を見てみます。今や、百貨店の家具売場は衰退し、通販と大手家具センターとディスカウンターがシェアを伸ばしています。そして、その時々に便利だ、お徳だ、機能的だといっては安手の家具が家の中にどんどん増えてゆきます。たいていは、その日のうちに持ちかえるか、次の週末には届けられます。逆にいえば、今在庫がなかったり、納品に何ヶ月もかかるようだったら誰も買いません。日本人はせっかちなのです。

そして、このような家具は、時間とともに確実にみすぼらしくなって、価値を下げてゆきます。そうなってしまった家具を、誰も欲しいとは思いません。ですから、どんどん捨てられてゆきます。そこそこ高価な婚礼家具にしても、結局、このような道をたどってゆきます。間違っても、アンティークになんかなりません。

良い家具とは

ほんとうに良い家具は、買った直後よりも10年以上経った時の方が、より輝いて見えます。買った当初はくすんでいたニスも、使いつづけるうちになめらかで深みのある光沢が出てきます。そして、さまざまな想い出とともに、家具に対する愛着が湧いてきます。ゆるみが出たり、きずがついたら、修理したりメンテナンスをすることで、その価値は下がることはありません。そして、何十年も使いつづけてゆくうちに、それは立派なアンティークになります。つまり、捨てられることはないのです。しかし、集成材や合板で作られた家具だったらろくな修理はできませんし、うっかり削ったら地肌が出てしまいます。それよりなにより、購入価格よりも修理代の方がはるかに高くつくことでしょう。結局、ごみにしかなりません。

ほんとうに良い家具は、大量生産できません。家具職人が木材を選び、ひとつひとつ手をかけて作ります。だから、在庫を持つことができません。在庫がありませんから、現品でない限り、納品は注文してから何週間、何ヶ月も後になります。ということは、通販やディスカウンターや家具の流通センターにはないということです。自分の好みの合った家具は、探さなければ見つかりません。

ほんとうに良い家具は、非常に高価ですから、一度にすべてを買い揃えることができません。1年に1個、数年に1個といったペースでしか買えないのが普通です。婚礼家具一式、などという買い方はありえません。そういう意味では、いくら豪華に見えても、家具セットというものは、所詮、安物だということです。

ほんとうに良い家具は、私達の生活を豊かなものにしてくれます。毎日、すてきなデザイン、上質の素材、職人技が光った仕上がりの、愛着の湧いた家具を眺めるだけで、良い気分になることでしょう。何年も、何十年もかけてそういった家具を揃えてゆくプロセス、そして、その家具を修理したりメンテナンスしてゆくプロセスそのものが、豊かな生活につながるのではないでしょうか。決して、一夜にしてすべてをきれいに買い揃えることが、本当の豊かさではないと思うのです。


〜参考ページ〜

ライフ・サイクル「耐久消費財」


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